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橘木俊昭著 岩波新書

格差問題の解決策

 格差の拡大は望ましくないのか、あるいは受け入れられるかどうかの判断基準は、それぞれ個人がもつ社会観や道徳観、あるいは人生観に大きく依拠する。一般的には、格差が過度に拡大するのは社会的公正の面からも望ましくない、という否定的な考え方が強くなっている。一方、以前、小泉首相が国会で答弁したように、「格差があって競争があって何が悪い。それは社会の活性化につながる」とか、「成功者をねたんだり、能力のある者の足を引っ張ったりする風潮を慎まないと社会は発展しない」という主張がある。これは、社会を発展させなければならないという価値基準からの判断であり、「格差は社会の活性化につながる限り望ましい。お金をもうけてこそ活力だ」「成功者を嫉妬せず称賛することが経済的反映に不可欠」と格差是認論を主張する財界人もいる。これら小泉首相や財界人の主張は、自由競争社会のもとで、個人も企業も「下からはい上がろう」と頑張ることで社会が活性化し、経済活動の活発化を図ろうとするものである。そして、そのことで社会全体が発展するのであるから、競争で落ちこぼれる人々は格差があるといって文句を言ってはならない、というものである。

 この考え方を経済・社会政策の観点から見ますと、社会をより競争的にする政策、あるいは所得再分配機能を縮小して経済活動へのインセンティブを強める施策が重要ということになる。また、努力の結果として獲得した利益についても、次なる投資や消費あるいは資産形成に十分にまわせるような施策が重要ということになる。したがって、累進課税や社会福祉施策の充実は社会の発展を阻害するということになる。これらの政策体系は、新古典主義、新自由主義あるいはマネタリズムと言われ、古くはイギリスのサッチャー首相、アメリカのレーガン大統領などが推進した。しかし結果的には、経済の再生は実現できたものの、社会保障制度は大きく後退し、貧困層の増大、教育の荒廃、犯罪の増加などの社会問題を誘発した。また、その対策のために大きな「後発コスト」がかかってしまうことになりました。一方、日本において、経済財政諮問会議が2001年6月に打ち出した「骨太の方針」にこのような考え方が出された。「骨太の方針」は、わが国は「努力が報われない」社会と特徴づけ、静態的な格差の小ささ、つまり「結果の平等性」が社会移動への努力要因を阻害しているとし、格差縮小施策を重視する平等主義を暗に批判している。さらに、近年では、「努力したものが報われる社会」を創るための努力誘因として、むしろ「結果の不平等性」を積極的に是認しようではないかという論調が強まっている。まさに、小泉首相の「格差があって何故悪い。格差と競争は社会の活性化のために必要だ」という主張がこの立場を象徴しています。

 しかし、この主張を押し通そうとすると、競争の中で落ちこぼれていく人々を放っておいてよいのか、という疑問や反論が起きる。これについて、格差を認める立場の論調は2つの解決策を示す。

(1)生活保護のように、憲法で保障された人間としての最低限の生存権を保障すれば足りるというもの。
(2)負けた人にもう一度チャレンジするチャンスを与えるというもの。つまり、不公平な現在の分配状態を自らの努力によって修正できる、いわば敗者復活の可能性が大きい社会経済の仕組みを作っていくべきだという考え。

 元自民党総裁である安倍晋三も、以前、この立場に立つ政策理念を強く打ち出した。しかし、かつて「活力ある福祉社会」「市場の適正なコントロール」といったスローガンを耳にしたように、今日では、経済学や社会学などの成果により、所得格差の拡大を食い止めながら、同時に社会を活性化させ、個人を奮い立たせる政策のあり方が提示されている。たとえ、敗者復活戦への参加や再チャレンジを推奨するにしても、制度的・予算的な整備とともに、社会全体としても、敗者の再挑戦を見守り、支援するという体制をつくっていかなければならない。例えば、フリーターの正規従業員への就労支援策などは、社会全体が共通の意思と責任を持って臨まなければ十分な成果は得られない。「社会の活性化」という政策目的のために、格差の維持・拡大を敢えて活用しようとする発想は、やはり一面的過ぎる。とくに、社会の格差問題が個別のサラリーマンの間の格差、あるいは個別世帯の所得格差や資産格差の問題を飛び越えて、地域間格差問題にまで広がっている現状を見ると、そのことがより明白である。地方経済の疲弊や活力の喪失は、地方交付税や補助金に頼る地方の体質を放置してきたことも一因と言われている。そのような財政を使った中央集権システムと国土の均衡発展という悪しき平等主義を推進してきたのが戦後政治を担ってきた自民党であった。

 現在、日本における経済格差の拡大の理由として、①経済の不況、②単身高齢者の貧困化、③母子家庭の増加、④若年者の二極化に伴う低所得若年者の増加、⑤非正規労働者の激増、⑥最低賃金水準の停滞、などが挙げられている。専門家による研究でも明らかにされているように、所得格差の拡大はその時々の景気状況に大きく左右される。しかし、格差拡大の要因が、例えば③の母子家庭の増加といった構造的な要因にもとづいていると、景気が回復してもこの格差は簡単に解消されない。個別的に見れば、相対的な貧困層から抜け出せない世帯が増加していくことが予想される。当然、これが子供の世代にまで続いていくとなると、日本は、社会階層が固定化されている社会、あるいは階層間の流動性がない閉塞的な社会ということになってしまう。

 かつての日本は、家庭の置かれた状況にかかわらず、子供が努力し学ぶことで親が属した社会層から脱し、より上を目指すことができた。「結果の不平等」があっても「機会の平等」が十分に機能する社会の仕組みがあったわけである。しかし、今日の日本は、この「機会の平等」が徐々に機能しなくなってきた状況にある。佐藤俊樹・東京大学大学院助教授は、著書『不平等社会日本』で、1985年以降、専門職や企業の管理職につく知識エリートへの道は親が高学歴の層に固定化され、いわゆる階層相続が戦前以上に強まっていることを指摘した。




 そして、この「階級社会化」こそが、企業や学校の現場から責任感を失わせ、無力感を生んだ現在の閉塞の要因となっていると警鐘を鳴らしている。このような分析に対して、一流会社の管理職や官庁の官僚が幸せで、肉体労働を伴う労働者は幸せではないのか、という反論があるが、佐藤氏の分析はそのような価値判断を保留して、階層化が進捗している現状を捉えたものである。一方、韓国においても格差が世代を通じて継承されている現状が報告されている。

 韓国では、1997年のアジア通貨危機後、労働市場の自由化政策がとられ、派遣・契約社員などが増大し、所得のジニ係数はあがり、格差が拡大していきた。その後、当然、経済は回復したが、とくに教育面において世帯間の格差が残っていた。高度成長期は貧しい家庭から多くの優秀な人材が育ってきたが、現在は勝ち組になれなかった親の「結果」が子供の「教育機会」を奪っている状況のようである。所得格差が教育格差として表面に出てきたわけだが、韓国政府も危機感をもち、近年、教育格差の解消のために膨大な教育予算を投入している。日本においても、また韓国においても、かつては高学歴は「個人の努力」の結果と見られていましたが、今では親から相続するものになっているようです。おそらく、この教育格差が社会的格差の継承・固定化をもたらす最大の要因だと思われているが、例えば優秀な子供が高等教育を受けるチャンスに恵まれないとなると、それは社会全体としても大きな損失になる。当然、このような教育格差は次なる所得格差を生み、「希望格差」や「健康格差」と言われているように、生活面や社会面など様々な分野で新たな不平等や不公平を誘発していくものと思われる。

 政治や経済のリーダーは「社会の活性化」を主張しているが、現状は所得格差や資産格差が「機会の平等」までも奪う領域に達している状況にあり、逆に社会が活力を大きく失っていくことになるかも知れない。このような現状を放置することなく、税制や社会保障政策における所得再分配システムのあり方を真剣に検討していくとともに、教育に関しては奨学金制度の拡充を含む教育行政の改革、若年者対策や非正規労働者対策を中心にした雇用政策の充実など、制度改革や予算獲得に向け尽力していくべきである。

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